中途採用ノウハウ、ユーザー調査、法改正情報が満載!
深刻な労働力不足・採用難が続く2026年現在。多くの中堅・中小企業が多大なコストと時間をかけて採用活動に注力する一方で、「せっかく獲得した中核人材や期待の若手社員が、メンタル不調によって突然の休職や離職に追い込まれてしまう」という事態が見られます。
これは企業にとって、現場の業務が回らなくなるだけでなく、採用費・教育費の損失、組織の士気低下など、計り知れない打撃に。ハラスメント対策や入社後ギャップの防止と同じように、社員のこころの健康を守るメンタルヘルスケアもまた、大切な人材の流出を防ぐ「リテンション(定着)戦略」の重要な柱といえるでしょう。
また、従業員数「100人〜299人規模」の中堅企業においては、従業員数50人以上の法定義務(ストレスチェックの実施、衛生委員会の設置、産業医の選任など)は一通りクリアしているものの、大企業のように潤沢な健康管理専門スタッフ(専属産業医や社内常勤保健師など)を抱えることが難しく、人事労務の担当者が何役も兼任しながら孤軍奮闘しがちな実態があります。
そこで今回は、主に中堅規模の企業特有の「メンタルヘルス対策の壁」を浮き彫りにしつつ、義務化クリアの「その先」へ進むために人事が知っておくべきポイントをご紹介します。今後、規模が大きくなる現状100人未満企業にとっても参考になるはずです。
厚生労働省の「労働安全衛生調査」によると、仕事や職業生活に関して強い不安や悩み、ストレスを感じている労働者の割合は、直近の調査で82.7%と依然として高い水準にあります。
こうした近年のメンタル不調者の増加や労災認定件数の高止まりを受け、国は2023年度(令和5年度)より5か年計画である「第14次労働災害防止計画」をスタートさせました。しかし、計画がスタートして以降もメンタル不調の増加傾向には歯止めがかかっておらず、令和5年度(2023年度)における精神障害の労災認定件数は883件と過去最高を更新しています。
注:当該年度以前に請求されたものを含む。
資料:「精神障害に関する事案の労災補償状況(令和5年度)」(厚生労働省)から引用
「第14次労働災害防止計画」では、2027年(令和9年)までに達成すべき以下のような具体的な目標(アウトプット指標・アウトカム指標)を定めています。
アウトプット指標(事業者が取り組むべき行動の目標値)
アウトカム指標(取り組みの成果として得られる結果の目標値)
「人事のミカタ」の調査では、メンタルヘルス対策の全体の実施率は59%。数値上は6割弱の企業で実施済みとなっています。ストレスチェックの義務がある50名以上から実施率が高まり、100名以上の企業では9割前後が実施済となっています。
しかし、実施の「中身」を詳しく見ていくと、中堅企業である100~299名企業はメンタルヘルス対策において難しい立ち位置にあることが見て取れます。
Q メンタルヘルス対策を実施していますか?
アンケート手法:WEBアンケート
アンケート期間:2026年4月22日~2026年6月3日
有効回答数:160人
※『人事のミカタ』会員に対するアンケート「社員のメンタルヘルス対策について(2026年版)」の結果を引用
まず、従業員数100~299名規模の中堅企業は、従業員数が50名を超えているため、「ストレスチェックの毎年実施」や「衛生委員会の毎月開催」「産業医の選任」といった法律上の最低限の義務は一通りクリアしているため、調査でも88%(約9割)の企業が「対策を行なっている」と回答しています。
Q 実施しているメンタルヘルス対策の具体的な内容を教えてください。
具体的な実施内容を見ると、ストレスチェックの実施率(94%)や産業医の設置率(86%)といった数字だけを見れば、大企業にも引けを取らない高い水準を維持しているように映りますが、以下の5項目で差があることがわかります。
| メンタルヘルス対策の項目 | 100~299名企業 | 300名以上企業 | 差 |
|---|---|---|---|
| 継続的な情報提供・啓発 | 9% | 23% | 14pt |
| 社内の相談窓口(人事等)の設置 | 57% | 64% | 7pt |
| 管理職向け(ラインケア)研修 | 34% | 41% | 7pt |
| 職場改善のためのワークショップ | 3% | 5% | 2pt |
| 結果の管理職フィードバック | 63% | 64% | 1pt |
大企業ほど、「社内相談体制の確立」「管理職へのフィードバックや教育」「日常的・継続的な啓発」といった社内インフラの構築や運用にリソースを割けており、100~299名規模の中堅企業ではなかなか難しい状況が見て取れました。
こうしたデータの差から、100〜299名規模の中堅企業が直面しているのは、「社内体制・教育の不足」、「継続的な情報提供・啓発の難しさ」、「集団分析・職場改善への着手の遅れ」という「3つの壁」にありそうです。次からその具体的な突破口を考察します。
中堅企業では設置率や実施率が低い「社内の相談窓口」や「管理職向け(ラインケア)研修」。社内でのメンタルヘルス対応力を高める取り組みが、やや後回しになりがちです。
また、100〜299名規模では「外部相談窓口(EAP等)」の設置率が37%と高くなっており、社内に専門リソースを置けないため、不調者対応を外部のEAPへアウトソーシングして解決しようとする構造があります。外部EAPの活用自体は非常に有効ですが、「窓口を契約して置いただけ」になってしまっては機能しません。
外部窓口の存在を社内に周知徹底するとともに、不調の予兆を現場でいち早く察知できるよう、社内の衛生管理者や管理職に対する最低限の「ラインケア教育」を社内で定期実施することが不可欠です。
また、管理職向けの「ラインケア研修」については、年に1回、安全衛生教育の一環として受講必須とするだけでも、現場の見落としリスクは劇的に低下します。
300名以上企業との間で最大の格差が開いたのが、「継続的な情報提供・啓発」です。100〜299名規模では、年1回のストレスチェックや単発の研修は実施できても、日常的にメンタルヘルスに関する啓発コンテンツを発信し続けるノウハウや、運用マンパワーが不足していることが原因として挙げられます。
対策としては、自社でゼロから啓発コンテンツを作成する必要はなく、厚生労働省が無料で提供しているeラーニング動画や「こころの耳」のハンドブック(15分〜30分程度でコンパクトに学べるもの)を活用する他、月1回の衛生委員会のタイミングで「社内チャットやメールで全社共有する」というルールを仕組み化しましょう。これだけで「継続的な啓発」の壁はクリアできるはずです。
ストレスチェックの実施率は高いものの、「結果の管理職フィードバック」や「職場改善のためのワークショップ」などの活用フェーズになると実施率は低い状況。集団分析の結果を見ても、「どの部署に問題があるか」を把握した後の、具体的な職場改善アプローチ(職場の人間関係の調整や業務量の適正化)の仕方が分からないという実務ノウハウの不足が原因です。
集団分析の結果、高ストレス判定やサポート不足の数値が出た部署の管理職に対し、人事からデータをフィードバックする個別面談の機会を設けましょう。難しく考える必要はなく、「最近、特定のメンバーに過度な残業や業務が偏っていないか」「職場内でのいじめ・嫌がらせやハラスメントの火種はないか」を対話するだけで、管理職自身のマネジメントに対する気づきを促し、現場の1次予防(未然防止)へ繋げることができます。
せっかく縁があって入社し、自社のコア人材や次世代のリーダーへと育ってくれた社員をメンタル不調で失ってしまうことは、企業にとって計り知れない損失です。
今回、100〜299人規模の中堅企業を中心に考察しましたが、実はこの規模の企業は、まだまだ経営陣やメンバーとの距離が物理的に近く、顔が見える距離。社員の「いつもと違う」という不調のサインに気がつくことができれば、最大のメンタルヘルス対策になるはずです。
社員の心身の健康を守り、結果として社員や求職者から「誠実な企業」として選ばれ続け、定着率を高めるためのメンタルヘルス対策の強化。ぜひ、参考にしてください。