人事・採用担当者の「ちょっと困った...」をスッキリ解決!
新米の人事です。社員がうつを患って休職。傷病手当金を受け取りたいと相談されましが上手く答えることができませんでした。 基礎的な知識から、支給期間や計算方法、申請方法を教えて下さい。
傷病手当金の支給は、指定の要件が揃った従業員に対してのみ行われます。従業員の円滑な休職・職場復帰を支えるとともに、不正利用を防止するためにも、正しい要件と手順を踏まえた適切な対応が必要ですので、上手く説明できるよう解説していきます。
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■ 給付の要件
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傷病手当金は、健康保険に加入している本人(被保険者)が、病気または負傷によって業務につけない場合に、療養中の生活保障として全国健康保険協会、健康保険組合(保険者)などから給付されます。
全国健康保険協会は、「被保険者が業務外の事由による療養のため労務に服することができない」状態であることを前提に、支給要件として以下の4つを提示しています。これらが全て揃わなければ、給付の手続きはできませんので、ご注意ください。
(1)業務外の病気やケガで療養中であること
傷病手当金は、業務外に休職の原因となる病気やケガをした場合に限られます。業務や通勤が原因の病気やケガは、労災保険の範囲となるので、適用外となります。ただし、うつ病などの精神疾患は、場合によって支給対象となるようです。
(2)労務不能であること
労務不能は、病気やケガによってこれまでしていた仕事ができない状態です。これは、医師の意見や被保険者の業務内容などを踏まえて、社会通念に基づき認定されます。
(3)4日以上仕事を休んでいること
連続する最初の3日間は手当金が支給されません。4日目から支給対象となります。
(4)休んでいる期間中に給与の支払いがないこと
仕事を3日間連続で休んだ後の休職期間中に給与が支払われている、または有給休暇を利用するなどの場合は、傷病手当金は支給されません。給与の支払いがある場合は、傷病手当金から給与支給分が減額されます。
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■ 支給期間と支給額計算
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傷病手当金は、病気やケガで休んだ日から3日を除き(これを「待期」といいます。 )、4日目以降の、復帰までの期間が支給の対象です。例えば、令和5年1月1日から休業した場合、令和5年1月4日が支給開始日となります。
また、支給期間の通算は、同一の病気やケガによる傷病手当金に限られます。別の病気やけがによる傷病手当金は、それぞれ別の支給期間となりますので、その点も注意しましょう。
但し、支給期間が終了した後にも、障害厚生年金や障害基礎年金などの制度を利用できる場合があります。
続いて、計算方法と具体例を見てみましょう。
傷病手当金の計算式は下記のとおりで、支給金額は、月給のおおよそ3分の2となります。
1日当たりの支給金額= (支給開始日以前の継続した12ヵ月間の各月の標準報酬月額を平均した額)÷ 30 × 2/3
「標準報酬月額」は、健康保険料・厚生年金保険料の計算に用いられる月額給与の目安です。毎年9月~翌8月という区切りで、前年4月~6月に支払われた給与の平均額を用います。例えば、令和4年9月~令和5年8月までの標準報酬月額は、令和4年4月~6月の給与の平均額ということになります。
【支給金額計算の具体例】
Aさんは、令和5年1月1日からうつ病で休業し、傷病手当金を受給することになりました。令和4年9月~令和5年8月までの標準報酬月額は30万円で、令和5年1月の休業日数は31日です。
・一日あたりの支給金額 = 30万円÷30日×2/3 = 6,667円
・支給日数 = 31日-待期3日=28日
・支給額 = 6,667円×28日 = 186,676円
以上のように、Aさんの傷病手当金の支給額は186,676円となります。
ただここで注意が必要なのは、傷病手当金の支給額は手取り額ではないということ。健康保険料・厚生年金保険料・住民税などが差し引かれた金額が手取りとなります。また、支給額は所得税の課税対象となります。従業員の方に説明される際は、実際に受け取る金額は計算よりもさらに減ることをお伝えください。
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■ 傷病手当金の手続き
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続いて、従業員に傷病手当金を受け取ってもらう流れを紹介します。
(1)従業員に怪我、病気の発生。医師からの診断を受け、診断書を受け取る
この際、診断書には病名や治療期間の記載が必要になります。
(2)従業員から企業に長期欠勤の旨を伝える
(3)従業員は「傷病手当金支給申請書」を用意
従業員自身が記入し、すべての項目を埋めてもらいましょう。書類に不備があると、不支給になる可能性があります。
(4)医師が「傷病手当金支給申請書」に労務が出来ない証明を記入
(5)企業が「傷病手当金支給申請書」に労務と給与に関する証明を記入
(6)企業から対象の保険組合(全国健康保険協会など)に「傷病手当金支給申請書」を提出
(7)保険組合から従業員に支給決定通知書が送られる
不支給の場合は、不支給決定通知書が送られます。
(8)従業員の指定口座に入金
療養中に給料がもらえない状況は、従業員にとってもその家族にとっても好ましい状況とはいえません。従業員から申請があった場合には、要件や手続きに従って早急な対応を心がけましょう。
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■ 運用の注意点
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令和4年1月1日から、がん治療といった長期間の療養と仕事との両立を図るため、傷病手当金の支給期間が通算化されました。これにより、同一のケガや病気に関する支給期間が、支給開始日から1年6か月目までとなり、その間に支給されない期間がある場合には、1年6か月を超えても繰り越して支給可能になります。
この通算化に伴い、人事担当者が留意すべきことは三つあります。
(1)傷病手当金の支給開始日と休業日数の正確な把握と記録。
通算期間を把握し、期間の上限に達している場合には、停止の対処などもしなければなりません。
(2)申請書に支給開始日と休業日数を明記すること。
(3)従業員の療養と仕事の両立を支援するために、制度や改正の内容を知っておくことです。
傷病手当金を受給することになると、従業員は「職場に迷惑をかけていないか」「今後の昇進・昇格はどうなるのか」など、療養以外の悩みを抱えることが少なからずあります。
そのため、会社や人事・労務担当には、療養中の従業員への連絡など、不安を解消する工夫も求められます。ぜひアドバイスすると共に、サポートの参考にしてください。
<監修>-------------------------------------------------------------
手塚伸弥|『人事のミカタ』編集長/第二種衛生管理者/認定心理士
2001年から人材系企業にて求人広告・採用広報ツールなどのコピーライター、クリエイティブディレクターを経て、2014年エン・ジャパン入社。以後、編集長として採用・人事労務・雇用関連の調査や情報発信を行なう。
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