要約すると
- 続く求職者優位の転職市場。生活に欠かせない流通・小売・フード業界の採用難易度は?
- 流通・小売・フード業界における労働者の過不足状況
- 2025年下半期、3業種ともに人手不足を背景に採用意欲は継続
監修者
「人事のミカタ」編集長/第二種衛生管理者/認定心理士
手塚伸弥
2001年から人材系企業にて求人広告・採用広報ツールなどのコピーライター、クリエイティブディレクターを経て、2014年エン・ジャパン入社。以後、編集長として採用・人事労務・雇用関連の調査や情報発信を行なう。
はじめに
前回の建設・不動産業界編に続き、今回は流通・小売・フード業界に焦点を当て、2025年下半期の転職市場を予測するレポートをお届けします。2025年下期に採用を計画する人事担当者の一助になれば幸いです。ぜひご活用ください。
続く求職者優位の転職市場。生活に欠かせない流通・小売・フード業界の採用難易度は?
※厚生労働省 ※令和7年(2025年)7月分 (2025年8月29日公表)
有効求人倍率(パートタイムを含む一般)/2025年の月別の数値は季節調整値
厚生労働省が発表した最新の一般職業紹介状況(令和7年7月分)によると、有効求人倍率は1.22倍、正社員有効求人倍率も1.02倍と、いずれも前月から横ばいの高水準を維持しました。新規求人倍率も2.17倍と高く、求職者優位の売り手市場が継続していることがうかがえます。
こうした状況に加え、コスト増を背景に採用を一部抑制する動きが見える卸売・小売業、「2024年問題」に直面する運輸業、インバウンド需要が旺盛な宿泊・飲食サービス業では人手不足が深刻化。「事業を維持するためには、採用を止めるわけにはいかない」のが実情です。生活に不可欠なサービスを担うこれらの業界では、2025年下期も人材獲得競争は激化し、採用活動の活発な状況は続いていくでしょう。
業界別の新規求人数
業種 |
2024年 |
2025年 |
4月 |
5月 |
6月 |
7月 |
8月 |
9月 |
10月 |
11月 |
12月 |
1月 |
2月 |
3月 |
4月 |
5月 |
6月 |
7月 |
建設業 |
68,030 |
66,071 |
67,258 |
68,070 |
61,111 |
69,054 |
72,023 |
61,586 |
64,455 |
68,423 |
63,726 |
68,079 |
70,334 |
64,247 |
68,305 |
68,157 |
製造業 |
57,388 |
54,905 |
55,752 |
59,569 |
54,849 |
59,845 |
65,458 |
55,482 |
55,757 |
61,022 |
55,519 |
56,738 |
58,417 |
52,467 |
54,703 |
59,463 |
卸売業,小売業 |
52,057 |
64,185 |
56,294 |
54,522 |
59,802 |
53,797 |
59,247 |
59,685 |
50,748 |
57,510 |
58,788 |
51,383 |
55,343 |
55,550 |
51,640 |
55,921 |
運輸業,郵便業 |
39,190 |
34,895 |
34,886 |
38,089 |
34,974 |
35,519 |
41,648 |
35,544 |
33,034 |
39,249 |
35,408 |
35,474 |
38,570 |
35,245 |
35,012 |
38,610 |
宿泊業,飲食サービス業 |
24,300 |
24,107 |
21,390 |
27,798 |
23,283 |
20,797 |
26,278 |
22,588 |
20,796 |
24,440 |
22,070 |
21,447 |
22,685 |
22,080 |
19,828 |
21,774 |
情報通信業 |
19,720 |
20,229 |
19,044 |
21,081 |
19,659 |
19,639 |
21,872 |
19,035 |
19,879 |
20,642 |
19,763 |
20,829 |
21,555 |
19,587 |
20,002 |
21,202 |
生活関連サービス業,娯楽業 |
14,402 |
14,250 |
12,385 |
14,521 |
14,102 |
12,178 |
14,825 |
13,636 |
12,079 |
14,127 |
13,679 |
11,974 |
13,826 |
13,485 |
11,688 |
13,345 |
不動産業,物品賃貸業 |
10,072 |
9,830 |
11,865 |
10,094 |
9,355 |
11,868 |
10,467 |
9,119 |
11,124 |
10,096 |
9,800 |
11,069 |
9,526 |
8,889 |
9,728 |
9,421 |
教育,学習支援業 |
4,686 |
5,062 |
5,277 |
5,066 |
5,140 |
4,923 |
5,497 |
5,329 |
5,571 |
6,176 |
5,774 |
5,302 |
4,984 |
4,587 |
4,709 |
5,223 |
金融業,保険業 |
4,287 |
3,744 |
4,056 |
3,875 |
3,998 |
4,023 |
3,899 |
3,857 |
4,324 |
4,263 |
3,793 |
3,352 |
4,008 |
3,619 |
3,689 |
4,530 |
景気の先行指標とされる新規求人数を見ていきます。
令和7年7月は、前年同月比で全体は1.2%の減少。最も減少幅が大きかった業界は「宿泊業,飲食サービス業」9.7%。次いで「卸売業,小売業」は4.7%減となりました。新規求人数の減少は、この2つの業界の影響が大きくなっています。一方、「運輸業,郵便業」は0.4%増となっています。
フード業界(宿泊業,飲食サービス業)では、令和7年に入ってから増減の波が激しく、求人動向は不安定。令和6年(前年)は、コロナ禍からの回復やインバウンド需要の急増により、求人活動が極めて活発だったことの反動減が一つの要因。
また、外食業では配膳ロボや注文用タブレットの導入、ホテル業でも自動チェックイン機の導入が進むなど、省人化の動きの影響も。また、ハローワークからは見えない「スポットワーク」活用が増加していることで、求人数としては減少しているように見える状況もあるようです。
小売業界(卸売業, 小売業)は、全体として新規求人数は減少傾向にあります。物価高による消費マインドの冷え込みや、人件費上昇を背景に、企業が特にパートタイム人材の採用に慎重になっている可能性を示唆しています。一方で、店舗運営を担う中核人材や専門職などの正社員求人は底堅く、人材の質を重視する傾向が見られます。
流通業界(運輸業, 郵便業)の新規求人数は前年同月比で +0.4% と微増。令和7年5月以降もわずかながら3ヶ月連続でプラスを維持しており、求人需要は底堅い状況です。
「2024年問題」(ドライバーの時間外労働規制)による構造的な人手不足を背景に、求人ニーズは常に高い水準。EC市場の拡大もドライバー需要を継続的に押し上げています。求人数の伸びが緩やかなのは、既に求人数が高水準にあることや、深刻な採用難から企業が採用計画を慎重に立てている可能性が考えられます。
■流通・小売・フード業界における労働者の過不足状況
業界別 労働者の過不足状況
産業 |
令和6年11月調査 1) |
令和7年2月調査 1) |
令和7年5月調査 1) |
不足 |
過剰 |
D.I. |
不足 |
過剰 |
D.I. |
不足 |
過剰 |
D.I. |
調査産業計 |
48 |
2 |
46 |
51 |
3 |
48 |
47 |
3 |
44 |
建設業 |
58 |
1 |
57 |
61 |
- |
61 |
59 |
1 |
58 |
製造業 |
44 |
4 |
40 |
50 |
4 |
46 |
45 |
4 |
41 |
情報通信業 |
55 |
1 |
54 |
59 |
1 |
58 |
57 |
- |
57 |
運輸業,郵便業 |
58 |
1 |
57 |
60 |
2 |
58 |
57 |
2 |
55 |
卸売業,小売業 |
29 |
5 |
24 |
32 |
5 |
27 |
31 |
3 |
28 |
金融業,保険業 |
28 |
1 |
27 |
31 |
- |
31 |
31 |
2 |
29 |
不動産業,物品賃貸業 |
44 |
1 |
43 |
47 |
2 |
45 |
46 |
2 |
44 |
学術研究,専門・技術サービス業 |
58 |
2 |
56 |
63 |
- |
63 |
61 |
2 |
59 |
宿泊業,飲食サービス業 |
46 |
2 |
44 |
49 |
2 |
47 |
45 |
2 |
43 |
生活関連サービス業,娯楽業 |
42 |
4 |
38 |
41 |
3 |
38 |
38 |
3 |
35 |
医療,福祉 |
64 |
1 |
63 |
60 |
2 |
58 |
53 |
3 |
50 |
サービス業(他に分類されないもの) |
48 |
2 |
46 |
50 |
2 |
48 |
52 |
1 |
51 |
※厚生労働省 労働経済動向調査(令和7年5月)の概況
注: 無回答を除いて集計している。
1)「11月調査」は11月1日現在、「2月調査」は2月1日現在、「5月調査」は5月1日現在の状況である。
同じく厚生労働省が公表している「産業別正社員等労働者過不足判断D.I.(指数)」を見てみましょう。
労働者過不足D.I.(ディフュージョンインデックス)は、人手不足の状況を示す指標で、不足と回答した事業所の割合から過剰と回答した事業所の割合を差し引いた値です。
フード業界は、統計上の求人数以上に採用が困難な状況が続く
フード業界(宿泊業,飲食サービス業)のD.I.推移は、 44(令和6年11月)→ 47(令和7年2月)→ 43(令和7年5月)と高い水準を堅持しています。
求人数は対前年で減少して見えているものの、実際には多くの企業が採用チャネルを多様化させている状況。厚労省の調査に現れないスポットワークの活用や、同業界内での正社員採用に向けて、人材紹介会社の利用も増え、公表される数値以上に人材獲得競争は激化していくと考えられます。
省人化・効率化投資も進むなど、2025年下半期も複雑な状況下で、いかにして必要な人材を確保するかが最大の課題となるでしょう。
小売業界は、統計上の求人数以上に採用が困難な状況が続く
小売業界(卸売業,小売業)のD.I.推移は、24(令和6年11月)→ 27(令和7年2月)→ 28(令和7年5月)と、一貫して上昇しており、人手不足感が着実に強まっていることがわかります。
他のサービス業種と比較すると低い水準ですが、物価高や人件費上昇を背景に採用に慎重な企業も一定数いることを示唆しています。
2025年下半期は、年末商戦に向けて一時的にパートタイム求人が増加する可能性はありますが、通年で見れば前年比で横ばいから微減で推移すると予測されます。DX(デジタルトランスフォーメーション)やEC(電子商取引)関連の専門人材の需要は引き続き堅調に推移するでしょう。
流通業界は、統計上の求人数以上に採用が困難な状況が続く
流通業界(運輸業, 郵便業)のD.I.推移は、57(令和6年11月)→ 58(令和7年2月)→ 55(令和7年5月)と、D.I.は常に55を超える極めて高い水準で推移しており、全産業の中でも特に深刻な人手不足に直面していることがデータから読み取れます。
2025年下半期も、求人数は高い水準で、横ばいから微増傾向が続くと予測されます。特に年末の繁忙期に向けては、短期的な求人が増加する可能性があります。業界全体の人手不足は解消されておらず、採用難易度は引き続き高いでしょう。
業界別 雇用判断状況及び雇用判断D.I.(季節調整値)
産業 |
実績 (令和7年1~3月期) |
実績見込 (令和7年4~6月期) |
見込 (令和7年7~9月期) |
増加 |
減少 |
D.I. |
増加 |
減少 |
D.I. |
増加 |
減少 |
D.I. |
調査産業計 |
18 |
16 |
2 |
18 |
11 |
7 |
13 |
6 |
7 |
建設業 |
18 |
14 |
4 |
19 |
10 |
9 |
14 |
6 |
8 |
製造業 |
17 |
17 |
0 |
21 |
10 |
11 |
13 |
6 |
7 |
情報通信業 |
28 |
21 |
7 |
24 |
12 |
12 |
23 |
6 |
17 |
運輸業,郵便業 |
21 |
15 |
6 |
20 |
10 |
10 |
12 |
3 |
9 |
卸売業,小売業 |
14 |
10 |
4 |
12 |
5 |
7 |
7 |
4 |
3 |
金融業,保険業 |
10 |
16 |
△6 |
13 |
16 |
△3 |
10 |
10 |
0 |
不動産業,物品賃貸業 |
21 |
12 |
9 |
25 |
6 |
19 |
23 |
4 |
19 |
学術研究,専門・技術サービス業 |
30 |
21 |
9 |
31 |
8 |
23 |
22 |
5 |
17 |
宿泊業,飲食サービス業 |
12 |
13 |
△1 |
21 |
5 |
16 |
11 |
6 |
5 |
生活関連サービス業,娯楽業 |
11 |
16 |
△5 |
14 |
8 |
6 |
11 |
6 |
5 |
医療,福祉 |
18 |
20 |
△2 |
13 |
18 |
△5 |
12 |
9 |
3 |
サービス業(他に分類されないもの) |
16 |
14 |
2 |
15 |
7 |
8 |
14 |
5 |
9 |
2025年下半期、流通・小売・フード業のまとめ
まとめ
|
卸売業, 小売業 |
運輸業, 郵便業 |
宿泊業, 飲食サービス業 |
正社員の不足感 |
平均より緩やか (+28) |
極めて深刻 (+55) |
平均レベル (+43) |
今後の採用意欲 |
慎重 (+3) |
強い採用意欲が継続 (+9) |
採用意欲は継続 (+5) |
状況の要約 |
コスト増を背景に採用には慎重な姿勢。
ただし、不足感は着実に強まっており、DXやEC関連など特定分野での人材ニーズは継続。
|
「2024年問題」を背景に、構造的で深刻な人手不足が継続。
人材の確保・定着が最重要課題であり、採用意欲は極めて高い。
|
インバウンド需要を背景に人手不足感は高い。
採用意欲は季節変動が大きいものの継続。
スポットワーク等の活用も進み、数値以上に人材獲得競争は激化。
|
3業種ともに人手不足を背景に採用意欲は継続していますが、その深刻度や姿勢には違いが見られます。
とはいえ、深刻な人手不足と売り手市場が続くことは確実。まずは同業他社との賃金比較や、求めるスキルに対する報酬が適正かの確認は採用成功に大きな影響をもたらします。
ドライバーや、店長の賃金相場とスキル相関を、ぜひご参考ください。
物流ドライバー(長距離・宅配)の賃金相場
物流ドライバー(長距離)
物流ドライバー(宅配)
飲食店の店長・店長候補の賃金相場
決定者の定性情報
年収(万円) |
決定者・決定求人内容の特徴(定性情報) |
800~999 |
転職先での役職・職務内容 |
全国展開している大手宅配フードや大手カラオケ店の店長、または店長候補。店長候補は店長にステップアップすることが前提。 |
600~799 |
転職先での役職・職務内容 |
全国展開している企業の地域限定求人が多い。店長候補から店長へステップアップするキャリアの他に、将来的にバイヤーや商品企画などを目指せる場合もある。 |
400~599 |
転職先での役職・職務内容 |
数店舗展開の企業の店長職。 |
採用決定者のスキルや経験 |
前職も飲食店の店長職やスタッフ職と、未経験と半々程度。 |
その他の特徴 |
20代前半~30代前半で、高卒、専門学校卒が多い。 |
300~399 |
転職先での役職・職務内容 |
店舗の店長職。新店舗のオープニング募集が多い。 |
採用決定者のスキルや経験 |
前職も飲食店の店長職やスタッフ職と、未経験と半々程度。 |
その他の特徴 |
20代前半~30代前半で、高卒、専門学校卒が多い。 |
※一般社団法人 人材サービス産業協議会『転職賃金相場2024』
さいごに
「業界別 転職市場レポート」は、いかがだったでしょうか?本記事を参考にして頂ければ幸いです。また、下期に採用を検討する場合は、ぜひ担当営業にお声がけください。