人事・採用担当者の「ちょっと困った...」をスッキリ解決!
新米の人事担当です。他社との人事交流会で、アンガーマネジメントを取り入れたという話を小耳にはさみました。アンガーマネジメントのメリット・デメリットや、職場での実践方法を教えて下さい。
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■注目の背景
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アンガーマネジメントはもともと、犯罪者のための矯正プログラムとして開発されていました。現在は、ビジネスや教育など、一般における幅広い分野での活用が進められており、特に近年、職場におけるパワハラ・セクハラとともに注目が高まりました。また、インターネット・SNSの普及によって、職場でのいじめ、いやがらせが見え易くなってきた現状もあります。
厚生労働省が実施した「令和2年度職場のハラスメントに関する実態調査」では、パワハラの相談件数が最も多く、該当事案の7割以上が「精神的な攻撃」によるものでした。
アンガーマネジメントは、このような仕事上のストレスを軽減し、生産性の高い職場を実現するための手法とも言い換えられます。企業における社員研修への導入も増え、一般化が進んでいるようです。
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■アンガーマネジメント研修の内容
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アンガーマネジメント研修で学ぶのは、怒りの抑制法。
一瞬の衝動による怒りの感情を爆発させることなく、まずは自身の怒りの感情と向き合います。
その上で、怒りの要因等を冷静に分析。要因を明らかにすることで、怒りを抑制できるように、習慣化することを習得します。
怒りのタイプは人によって異なるものです。自分の怒りのタイプを知り、より効果的なアンガーマネジメントを実現しましょう。日本アンガーマネジメント協会のホームページでは、怒りの傾向を6つのタイプで診断する「アンガーマネジメント診断」を受けることができます。ぜひご参照ください。
〇日本アンガーマネジメント協会のホームページ
https://www.angermanagement.co.jp/test
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■アンガーマネジメントを身につけるメリット/知らないことによるデメリット
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【メリット】
メリットは大きく3つ。
(1)ストレス軽減
心身の健康が保たれ、心が乱されず仕事の生産性が上がる効果もあるでしょう。
(2)人間関係の改善
怒りをコントロールできていないと、相手への暴言・暴力など、あってはならないことが起きてしまいます。アンガーマネジメントによって、相手に不快な思いをさせ、信頼や尊敬を失う行為を減らし、コミュニケーションの質を高めることができます。もちろん、教育や指導にも良い影響が見られることでしょう。
(3)自己肯定感
感情を制御できていない場合、自分の行動や判断に自信が持てず、自分を責め、自己肯定感が低下することがあります。アンガーマネジメントによって、ネガティブな感情を抑え、ポジティブに変える方法を学ぶことで、この課題を改善できるはずです。自分の能力や価値を認め、目標に向かって挑戦する機会にもつながるのではないでしょうか。
【デメリット】
反対に、アンガーマネジメントを知らない場合はどうでしょうか。怒りに任せ、感情を他人にぶつけるということは、自分だけでなく周囲の人にもストレスを蓄積させることになります。職場での良好な人間関係を築けず、関係性を悪化させる可能性も高いと言えます。また、メンタルヘルスに悪い影響を与え、生産性が低下する恐れがあります。
取り入れた場合に対し、怒りのコントロールができないままで居ても、良いことは一つもありません。実践編を読み、取り入れる方法をしっかり確認しましょう。
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■実践 アンガーマネジメント
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アンガーマネジメントでは、「衝動・思考・行動」の3つの観点で、怒りをコントロールします。
【衝動】
(1)6秒ルール。
まずは我慢。 怒りに反射しないこと、これは怒りの対処術すべてに共通しています。
怒りでカッとなったことや、頭がアツくなったことがある方は多いと思います。実は、怒りは最初の「6秒間」がピークだと言われています。この6秒間を、いかにやり過ごすかが重要。怒りを感じた瞬間、深呼吸する、何も考えないようアタマを真っ白にして思考停止するなど、自分を抑えるようにすると良いでしょう。これだけでも、衝動的に行動することを抑えられます。
(2)その場から離れる
それでも収まらないときは、移動も効果的です。感情が外に出る前にその場から離れ、怒りの対象から気をそらしてみましょう。
【思考】
(1)点数化してみる
平穏な状態から人生最大の怒りまで段階化し、怒りに点数をつけてみましょう。採点中、感情を客観視でき、沈静化を助けてくれます。過去の怒りと比較して今の感情を相対評価することもでき、コントロールにも近付きます。
(2)許容範囲を広げる
「こうあるべき」と考える自分の信条が裏切られたとき、人は怒りを感じます。しかし、「こうあるべき」の範囲は人それぞれ。
例えば、「どんな場合でも嘘をつくべきではない」という人もいれば、「必要があれば、嘘をついても良い」という人もいるはずです。自分の信条を絶対視しない。かといって、全て相手に合わせる必要もない。自分とは違う信条の人がいることを理解した上で、許せる範囲を広げていくと、怒ること自体が減っていくはずです。
【行動】
(1)起こる以外で解決する方法を探す。
怒ることは必ずしも悪いことではありませんが、「怒ることが最適解なのか?」は疑うべきです。状況がどのように変われば、自分の怒りは収まるのか?怒ることによって、良くなるのか?自分に疑問を投げかけましょう。もし怒ることで変えられないことなのであれば、執着しないことが大切です。
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■職場での活用
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先ほど、アンガーマネジメントによって個人や周囲が得られるメリットについてお話しました。上記のような実践方法によって、職場ではどのようなメリットがあるのか、見ていきましょう。
(1)パワハラ防止
令和2年6月1日の「改正労働施策総合推進法」施行により、職場におけるパワーハラスメントの防止措置が事業主に義務付けられました。職場でのパワハラは、労働者のメンタルヘルスを損ない、職場の雰囲気や生産性を低下させます。アンガーマネジメントによって、怒りを適切に表現し、相手の感情や立場を尊重するコミュニケーションを実現し、パワハラの抑止に繋げましょう。被害者や目撃者に対しても、アンガーマネジメントの知識や技術を活用した適切な対応や支援ができるようになるでしょう。
(2)コミュニケーションの円滑化
コミュニケーションは、仕事の成果や品質に大きく影響する要素です。自分の感情や価値観をうまく表現するとともに、相手の感情や価値観を受け入れ、それらを聴くスキルも習得できるため、自分の言いたいことを伝える力と、相手の言いたいことを受け取る力が高まります。さらに、目の動きや表情、声のトーンといった非言語的なコミュニケーションの重要性も学ぶことができます。
(3)生産性の向上
生産性とは、労働者の労働時間あたりの生産量や付加価値を指します。アンガーマネジメントによって怒りやストレスを軽減し、心の健康を保つことで、労働者の集中力や判断力、創造力などの能力が向上し、仕事の質や効率が高まる効果を得られるでしょう。また、自分の目標や価値観を明確にし、それに沿った行動をとることで、労働者の自己肯定感や達成感が高まり、モチベーションが向上します。人間関係のストレス軽減によって協調性や信頼性を高め、労働者のチームワークや協力関係が強化され、生産性が向上します。
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■運用の注意点
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これまで様々なメリット・導入方法をお話してきましたが、最後に運用の注意点についてお伝えします。
(1)無理に抑え込まない
アンガーマネジメントの目的は、怒りの感情をコントロールすることであって、怒りを無理に抑え込むことではありません。怒りは、人間の持つ自然な感情の一つであるため、適切に扱えば、自己を守るエネルギーとして活用できます。無理に抑え込んでしまうと、その感情が心身の健康に悪影響を及ぼす可能性があります。たとえば、高血圧や心疾患・不安やうつ症状・自己否定感や自信喪失、対人関係のトラブルや孤立感などが挙げられるでしょう。
怒りの感情を自覚し、自身のタイプを把握し、適切に表現し、ポジティブに変換することが大切です。
(2)都合よく扱われてしまう
良好な人間関係や生産性の向上につながるというメリットは、都合よく扱われてしまうというデメリットを併せ持ちます。例えば、上司や同僚が、自分のミスや不手際を棚に上げて、部下や部署の責任にしたり、要求や要望を押し付けて、部下や部署の意見や感情を無視したり、自分の感情や態度をコントロールできない人が他者にはアンガーマネジメントを求めたり、等です。
相手の行為や態度に対する自分の感情や考えを明確にし、適切に伝え、考えを聞き入れ、合意や解決策を探るといった方法で活用しましょう。
(3)感情のエネルギーが湧かない
怒りの感情をコントロールすることでポジティブなエネルギーとして活用することを目的としているのがアンガーマネジメントです。そのためには、感情のエネルギーが必要です。自分の感情や考えに自信がなかったり、表現することに恐れや抵抗があったりする場合、自分の感情や考えを認めることから始めなくてはなりません。自分の感情や考えを素直に受け止め、自己評価を高めるなどして、自己理解を深める仕組みも必要でしょう。
いかがでしょうか。
怒りも、人が持つ大切な感情の一部です。仕事の場で、それを適切に扱い、管理できることは、その人自身の仕事人生にとっても、組織にとっても良い影響を与えるはずです。
診断も含め、ぜひご参照ください。
<監修>-------------------------------------------------------------
手塚伸弥|『人事のミカタ』編集長/第二種衛生管理者/認定心理士
2001年から人材系企業にて求人広告・採用広報ツールなどのコピーライター、クリエイティブディレクターを経て、2014年エン・ジャパン入社。以後、編集長として採用・人事労務・雇用関連の調査や情報発信を行なう。
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