人事・採用担当者の「ちょっと困った...」をスッキリ解決!
退職する社員が、退職希望日の1ヶ月前に退職願を提出すると同時に、残っていた有給休暇20日分の取得届を出してきました。これにより、実質的に翌日から出社しないことになり、年度末の繁忙期にもかかわらず、後任への引継ぎが全くできない状態です。
業務に大きな支障が出ますが、引き継ぎをしないまま有給消化を認めないといけないのでしょうか?
退職時に「残っている有給休暇をすべて消化してから辞めたい」と申し出る社員への対応は、法的な権利と信義則上の義務が交錯する難しい問題です。
まず法的には、年次有給休暇の取得は労働者に認められた権利であり、会社は原則としてこれを拒否できません。
会社には「時季変更権」がありますが、これは事業の正常な運営を妨げる場合に、取得時季を変更してもらう権利です。しかし、退職日が確定しており、他に有給休暇を取得できる日がない場合、会社は時季変更権を行使できず、取得を認めざるを得ません。
一方で、労働者には労働契約上の信義則に基づき、業務の引継ぎを誠実に行う義務があります。引継ぎを全く行わずに退職し、会社に具体的な損害を与えた場合、理論上は損害賠償請求が可能ですが、損害額の立証が困難であるため、現実的な手段とは言えません。
したがって、実務的な対応としては、まず本人と冷静に話し合うことが重要です。有給休暇の取得は権利として認めつつ、円満な退職のために、後任者への引継ぎに協力してほしい旨を丁寧に依頼します。例えば、「最終出社日までに引継ぎを完了させる」「引継ぎ資料を詳細に作成してもらう」といった具体的な協力を求めます。
最も重要なのは予防策です。日頃から業務を特定の個人に依存させず、マニュアル作成や情報共有ツール活用を進め、業務の属人化を解消しておくことが、退職時の引継ぎトラブルを回避する最善の策となります。