人事・採用担当者の「ちょっと困った...」をスッキリ解決!
新任の人事です。退職予定の社員から失業保険について聞かれましたが、うまく説明することができませんでした。基本的な概要や条件について教えください。
失業保険は、正式名称を「雇用保険」と言い、公的な保険制度の一つです。失業保険の目的には「失業者の生活の安定」「失業者の再就職の促進」「労働者の能力開発や福祉の増進」等があり、失業者の生活を守り、早く再就職できるよう国が援助する制度となります。
つまり、単に「無職になってもお金がもらえる」制度というわけではなく、生活の安定や再就職、能力開発を促すための制度であることを覚えておくことが第一になります。退職予定の社員の方に、忘れずにご説明ください。
-------------------------------------------------
■失業保険(手当)の受給手続きに向け、企業がすべきこと
-------------------------------------------------
失業した方が、失業保険(手当)を受給するためには、以下の手続きが必要です。企業側としては、雇用関係が終了した際に、退職者に対して離職票と収入証明の交付が必要です。
(1) オンライン(ハローワークインターネットサービス)か、窓口(最寄りのハローワーク)での申請
申請に必要な書類は、「離職票」「収入証明書」「振込口座通知書」「本人確認書類」、その他、育児休業中に失業した場合などは、育児休業給付金支給決定通知書や育児休業期間証明書などが必要です。
(2) 初回面接:ハローワークで失業理由や就職活動状況などの確認があります。また、再就職支援プログラムや求職活動支援制度などの説明も受けます。
(3) 待機期間:初回面接から7日間は待機期間となり、この間、給付金は支払われません。待機期間中も就職活動を継続する必要があります。
(4) 給付開始:待機期間が終了すると、給付金の支払いが開始されます。給付金は、月に2回、指定された銀行口座に振り込まれます。給付金の額は、収入証明書に基づいて算出されます。給付金の支払い期間は、失業時の年齢や雇用期間などによって異なります。
(5) 就職活動報告:給付金を受けるためには、就職活動を継続することが条件です。就職活動の内容や状況は、ハローワークインターネットサービスやハローワークで定期的に報告する必要があります。また、ハローワークから求人情報や再就職支援プログラムの案内が届く場合があります。これらに対しては、適切に対応する必要があります。
(6) 再就職:再就職した場合は、速やかにハローワークに届け出る必要があります。再就職した日から給付金の支払いは停止されます。また、再就職祝い金や再就職準備金などの特別な給付金を受けることができる場合があります。
繰り返しになりますが、企業側としては、退職者に対して、離職票と収入証明の交付が必要となります。上記さえ覚えておけば、退職予定の社員の方に基本は説明できるはずです。ご参考ください。また、以下は給付条件などの詳細となります。より詳細を知りたい方はご確認ください。
-------------------------------------------------
■失業保険(手当)を受給するための3つの条件※受給条件
-------------------------------------------------
(1) 「失業の状態」にあること
「失業の状態」とは、雇用契約が企業側から解除されている状態や、契約期間満了に伴い雇用関係が終了した状態を指します。
(2) 「雇用保険の被保険者期間が一定期間以上ある」こと
「雇用保険の被保険者期間」とは、雇用保険に加入して働いていた期間のことを指します。
期間は、年齢や職種によって異なりますが、基本的には過去2年以内に12ヶ月以上加入している(働いている)ことが条件です。
(3) 「求職活動をしている」こと
「求職活動」は、文字通り新たな働く先を探す活動のことを指します。求職活動をしていることを証明するためには、求職活動報告書という書類に記入して提出する必要があります。求職活動報告書は、原則として毎月1回提出しますが、特別な事情がある場合はその回数や期限が変更される場合があります。
-------------------------------------------------
■失業保険(手当)の種類と、受給金額
-------------------------------------------------
まず、失業保険(手当)には、以下の4種類があります。
【基本手当】
失業中の生活資金として支給される手当です。受給額は平均賃金の50~80%で、年齢や雇用保険加入期間によって上限額や受給期間が異なります。
【就職促進給付】
再就職した場合に、一時金として支給される手当です。基本手当の残日数に応じて支給額が決まります。
【教育訓練給付】
職業訓練や能力開発を受ける場合に、訓練費用や生活費として支給される手当です。訓練内容や期間によって支給額が異なります。
【雇用継続給付】
定年後や育児・介護休業後などに再雇用された場合に、賃金差額分を補填するために支給される手当です。再雇用形態や年齢によって支給額が異なります。
次に、失業保険(手当)の受給金額についてご紹介します。
-------------------------------------------------
●基本手当日額
-------------------------------------------------
「 基本手当日額 = 賃金日額×給付率 」
・基本手当日額は、「離職前の賃金を基に算出される1日あたりの支給額」
・賃金日額は、退職する前6ヶ月間に支払われた賃金の合計を180で割ったものです。賃金には、基本給や残業代などの定期的な支払いが含まれますが、賞与や退職金などの不定期な支払いは含まれません。また、計算の最後に小数点以下を切り捨てて整数にします。
・給付率とは、離職時の年齢や雇用保険の加入期間によって異なる割合で、およそ50~80%割程度に相当します。一般的には、年齢が高く、加入期間が長いほど高くなります。
注意が必要なのは、基本手当日額と賃金日額に上限があることです。こちらは毎年度の平均給与額の変動に応じて変更されます。令和5年8月1日から令和6年7月31日までの期間では、以下の表のようになります。
--------------------------------------------------------------------------------
離職時の年齢 |賃金日額の上限(円) |基本手当日額の上限(円)
29歳以下 |13,890 |6,945
30~44歳 |15,430 |7,715
45~59歳 |16,980 |8,490
60~64歳 |16,210 |7,294
--------------------------------------------------------------------------------
-------------------------------------------------
●所定給付日数
-------------------------------------------------
所定給付日数とは、離職理由や年齢などによって決められる、基本手当を受給できる日数のことです。以下の3つの区分に分けられます。
(1) 特定受給資格者及び一部の特定理由離職者
倒産や解雇などの事業主都合で離職した場合や、災害や病気などのやむを得ない理由で離職した場合に該当します。所定給付日数は、離職時の年齢と被保険者期間(雇用保険の適用を受けた期間)によって異なります。一般的には、年齢が高くなるほど、また被保険者期間が長くなるほど、所定給付日数は長くなります。最長で360日です。
(2) 一般の受給資格者:自己都合で離職した場合に該当します。所定給付日数は、被保険者期間によって異なります。一般的には、被保険者期間が長くなるほど、所定給付日数は長くなります。最長で150日です。
(3) 就職困難者:特定の条件を満たす場合に該当します。例えば、45歳以上で失業中に職業訓練を受けた場合や、障害者手帳を持っている場合などです。所定給付日数は、離職時の年齢と被保険者期間によって異なります。一般的には、年齢が高くなるほど、また被保険者期間が長くなるほど、所定給付日数は長くなります。最長で360日です。
-------------------------------------------------
■失業保険(手当)の受給期間
-------------------------------------------------
失業保険の給付日数は離職した理由などによって異なり、以下の3者に分けられます。
(1) 一般の離職者の場合
--------------------------------------------------------------------------------
雇用期間 |年齢 |受給期間
6ヶ月以上12ヶ月未満 |60歳未満 |90日
12ヶ月以上24ヶ月未満 |60歳未満 |120日
24ヶ月以上36ヶ月未満 |60歳未満 |150日
36ヶ月以上48ヶ月未満 |60歳未満 |180日
48ヶ月以上60ヶ月未満 |60歳未満 |210日
60ヶ月以上 |60歳未満 |240日
6ヶ月以上12ヶ月未満 |60歳以上65歳未満 |120日
12ヶ月以上24ヶ月未満 |60歳以上65歳未満 |150日
24ヶ月以上36ヶ月未満 |60歳以上65歳未満 |180日
36ヶ月以上48ヶ月未満 |60歳以上65歳未満 |210日
48ヶ月以上60ヶ月未満 |60歳以上65歳未満 |240日
60ヶ月以上 |60歳以上65歳未満 |270日
--------------------------------------------------------------------------------
(2) 特定受給資格者の場合
特定受給資格者とは、次のいずれかに該当する離職者のことです。
・障害者手帳を持つ者
・離職前1年以内に育児休業や介護休業を取得した者
・離職前1年以内に育児・介護短時間勤務制度を利用した者
・離職前1年以内に育児・介護休業等取得者等就業支援金を受給した者
・離職前1年以内に子どもが生まれた者
・離職前1年以内に配偶者が死亡した者
--------------------------------------------------------------------------------
雇用期間 |年齢 |受給期間
不問(6ヶ月以上) |不問(65歳未満) |最長330日
(3) 特定理由離職者の場合
特定理由離職者とは、次のいずれかに該当する離職者のことです。
・健康上の理由で離職した者
・家庭上の理由で離職した者
・事業主の都合で離職した者
・事業主の違法行為により離職した者
・事業主の不正行為により離職した者
・労働条件の変更により離職した者
・労働条件の不履行により離職した者
・労働契約の期間満了により離職した者
・労働契約の解除により離職した者
特定理由離職者は、一般の離職者と同じ受給期間が適用されますが、受給開始日が早まります。一般の離職者は、失業認定日から7日間は待機期間となり、この間は失業保険を受けられません。しかし、特定理由離職者は、待機期間がなく、失業認定日からすぐに失業保険を受けることができます。
<監修>-------------------------------------------------------------
手塚伸弥|『人事のミカタ』編集長/第二種衛生管理者/認定心理士
2001年から人材系企業にて求人広告・採用広報ツールなどのコピーライター、クリエイティブディレクターを経て、2014年エン・ジャパン入社。以後、編集長として採用・人事労務・雇用関連の調査や情報発信を行なう。
-------------------------------------------------------------