人事・採用担当者の「ちょっと困った...」をスッキリ解決!
新任の人事です。ストレスチェックの実施を上司からお願いされたのですが何をしてよいか分かりません。改めて、ストレスチェックの実施方法やその後の対応について教えて欲しいです。
ストレスチェックは、ストレスに関する質問票に対して労働者自身が回答し、それを集計・分析することでストレス状況を確認する検査のことを言います。
チェック後は、個人への対応だけでなく、組織全体としての見直しが必要な場合もあります。人事担当者には、制度の適切な運用に努め、社員のメンタルヘルスに配慮した人事管理を行うことが求められています。その詳細について、実施方法とともに見ていきましょう。
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■ストレスチェックと健康診断との違いは?
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ストレスチェックと健康診断の大きな違いは2つあります。1つは労働者の受診義務の有無。もう1つは、診断結果の報告先です。
健康診断は、労働者に受診の義務がありますが、ストレスチェックに受検義務はありません。また、健康診断の結果は事業所に報告されるものですが、ストレスチェックの診断結果は、ストレスチェック実施者、実施事務従事者および労働者本人にのみ報告され、事業所には報告されません。診断結果を入手するには、本人の同意が必要になります。
また、ストレスチェックの実施者は以下のいずれかに限られます。
・医師、保健師、精神保健福祉士
・厚生労働大臣の定める研修を受けた、看護師・精神保健福祉士・歯科医師・公認心理師
企業の人事担当者など、人事権を持つ人は実施者になれません。実施者の補助を行なう実施事務従事者に関しても人事権を持たない職員等である必要があります。ご注意ください。
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■ストレスチェックの対象者
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ストレスチェックの対象者は、厚生労働省が定める「常時使用するもの」に該当し、「契約期間が1年以上/1週間の労働時間が通常の労働者の4分の3以上」のいずれかを満たす労働者です。
常時雇用者・直雇用のパート、アルバイトは対象で、週1日のパート労働者であっても、継続雇用され常態として使用している場合には労働者としてカウントします。
但し、事業者である社長や役員、派遣労働者は制度対象外です。
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■ストレスチェック実施の流れ
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ストレスチェック実施のおおまかな流れは次のようになっています。
【(1) 導入の準備】
まず、会社として「メンタルヘルス不調の未然防止のためにストレスチェック制度を実施する」旨の方針を示し実施方法などを話し合います。具体的には、ストレスチェックの実施者、いつ実施するのか、面接指導はどの医師に依頼するのか等です。加えて、決定事項を社内規定として明文化し、すべての労働者に内容を伝える必要があります。
【(2)ストレスチェックの実施】
質問表を労働者に配布し、記入してもらいます。回答済みの質問票は医師など実施者が回収し、第三者や人事権を持つ職員が閲覧できないようにします。
【(3)面接指導の実施と就業上の措置】
結果によって面接指導が必要と判断された労働者がいた場合、事業者には下記の対応が求められます。
・1か月以内に面接指導を実施する(義務)
・面接から1か月以内に医師から意見聴取を行う
・面接指導の結果と医師の意見に基づき、休職等、必要な就業上の措置を取る
なお、労働者の申し出を理由に、その後不利益な取り扱いを行うことは禁止されています。
【(4)職場分析と職場環境の改善】
ストレスチェックの実施者に結果を集計・分析をしてもらいます。集計・分析結果を踏まえて、職場環境の改善に取り組みます。
【(5)ストレスチェック実施の報告】
ストレスチェックが完了したら、報告書をまとめて労働基準監督署に提出します。
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■ストレスチェック後の対応と活用方法は?
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ただ行うだけでは意味がありません。重要なのは、ストレスチェック制度の活用と改善です。
(1)高ストレス者への対応
先述したように、高ストレスと判定された社員に対しては、医師による面接指導を実施することが義務付けられています。面接指導とは、社員のストレスの原因や状況を聞き取り、適切なアドバイスや支援を行うことです。ただし、以下の3点には注意してください。
・社員の同意がある場合に限り行う。同意がない場合、自主的な対応を勧める
・医師が実施。不在の場合は、保健師や心理士などの専門家に依頼が可能
・個人情報の保護や秘密の守秘に十分配慮、面接指導の結果は、社員の同意がある場合に限り、企業に報告。
細かい対応については、以下のようなことが挙げられます。
・時間と回数: 一般的には、1回30分程度、2~3回程度が目安。社員の状態やニーズに応じて、必要な回数と時間を設定
・ストレス要因の把握: ストレス軽減やコーピング・セルフケアの方法、専門機関の紹介
・就業上の配慮: 就業場所の変更・作業の転換・労働時間の短縮など、必要性と内容を検討し、企業に意見を聴取
・フォローアップ: 面接指導の効果を確認するため、定期的に行う。社員の症状の変化や改善の状況、就業上の配慮の実施状況などを確認し、必要に応じて追加の面接指導や対策を実施。
(2)職場環境の改善
ストレスチェックの結果は、集団ごとに集計・分析して企業へ提供することが義務付けられています。企業側は、集団分析の結果を活用し、職場環境の改善につなげましょう。衛生委員会等による要因特定と改善策の立案、実施を行ない、効果を評価していくというのが一般的な流れです。企業のみならず、従業員・労働組合などと連携し、事業場の特性や社員のニーズに応じて柔軟に対応しましょう。
(3)健康経営の推進
職場環境の改善やメンタルヘルス対策だけでなく、健康経営の推進にも寄与するのがストレスチェック制度。健康経営とは、企業が社員の健康を経営的な視点から重視し、戦略的に取り組むことです。社員の健康と幸福感が向上し、経営の効率性や競争力の強化に繋がります。
推進のためには、健康経営に係る理念や方針が全社的に浸透すること、PDCAサイクルを回すこと、ストレスチェック制度を含む健康管理プログラムを提供すること、効果分析と発信などが必要です。
健康経営を推進することで、企業の社会的な責任や信頼も高まります。実際、健康経営優良法人認定制度や健康経営株式指数などの制度も設けられており、表彰や優遇などのインセンティブによって健康経営の普及・促進が進められています。
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■ストレスチェック制度に関して罰則はある?
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労働安全衛生法の改正により、2015年12月から、この検査を全ての労働者※に対して実施することが義務付けられました。実施回数は毎年1回とされていますが、社員が特にストレスを感じている場合や、職場環境に大きな変化があった場合などは、年1回以上の実施が推奨されています。対象となる企業は、50人以上の労働者を持つ事業所です。
※契約期間が1年未満の労働者や、労働時間が通常の労働者の所定労働時間の4分の3未満の短時間労働者は義務の対象
該当する事業所が、ストレスチェックの実施後、労働基準監督署に報告を行わなかった、もしくは虚偽の報告をした場合は、罰則があります。労働安全衛生法より「最大で50万円の罰則金」の支払い義務が課せられます。
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■ストレスチェックの注意点
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(1)受験義務がない
先述したように、ストレスチェックには労働者側に受検義務がありません。
そのため、ストレスチェックを実施しても労働者が回答しないという状況があり、企業側の頭を悩ます問題になっています。厚生労働省の調査によると、令和4年度の時点でストレスチェックを実施した企業の割合は、全体の約4割程度となっています。メンタル不全者の早期発見や、職場環境の改善のため、受験してもらえるよう労働者に促すなど、工夫が必要です。
(2)プライバシーの保護
ストレスチェックは、社員の心理的な負担の程度を把握するための検査です。その結果は、社員のメンタルヘルスに関する個人情報であり、企業は、従業員のプライバシー保護を順守しなければなりません。
受験義務がないとは言え、強制的な受験や不利益な取扱いを行わないよう注意しましょう。結果についても、本人の同意がある場合・医師による面接指導を受ける場合は開示することができますが、原則通知されるのは本人のみです。開示を受けた場合、適切な管理・漏洩・改ざんの防止に努めましょう。また、結果の内容は、個人情報保護法に基づく権利を尊重します。従業員は、開示、訂正、削除、利用停止などの請求をすることができます。
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■まとめ
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いかがだったでしょうか。
ストレスチェック導入にあたって、わからない点も多くあると思いますが、厚生労働省からの「ストレスチェック導入マニュアル」や、「職業性ストレス簡易質問票」を参考に、導入を進めていきましょう。
また、「改正労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度について」という資料にも詳細な情報が記載されています。ぜひ参考にしてください。
▼参考
ストレスチェック制度導入マニュアル(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei12/pdf/150709-1.pdf
改正労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度について(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei12/pdf/150422-1.pdf#page=30
<監修>-------------------------------------------------------------
手塚伸弥|『人事のミカタ』編集長/第二種衛生管理者/認定心理士
2001年から人材系企業にて求人広告・採用広報ツールなどのコピーライター、クリエイティブディレクターを経て、2014年エン・ジャパン入社。以後、編集長として採用・人事労務・雇用関連の調査や情報発信を行なう。
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